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元おじゃる丸声優、小西寛子手記「わたしを降板させたNHKに告ぐ!」(もう一度読みたいアノ記事)

2018/12/12号 産経デジタル iRONNA掲載記事アーカイヴ(写真、筆者撮影NHK渋谷センタービル)

 「あなたがさぁ! やるって言わないと! 仕事できなくなっちゃうよ!」

 18年前、東京都新宿区にある録音スタジオで、アニメ制作会社社長に突然呼び出され、こう告げられた。

 NHK教育テレビ(Eテレ)で放送中のアニメ『おじゃる丸』は、1998年にスタートし、現在もEテレの人気番組としてシリーズが続いている長寿番組である。

 ただ、2006年9月には原作者、犬丸りんさんが「仕事ができない」などと遺書を残し、自宅マンションから飛び降りて自死する不幸もあった。

 かくいう筆者も主人公、坂の上おじゃる丸の声を98年から00年の第3シリーズまで担当したが、冒頭のやりとりの後に降板を言い渡された。その理由は、信じられないほどくだらない、アンプロフェッショナルな事情だった。

紙袋の中のおじゃる丸人形

 事の発端は、NHK関連会社社員のA氏が持ってきた紙袋の中身だった。たまたま東京・渋谷の音楽スタジオで作業していた筆者の事務所担当者のもとへ、A氏がビデオテープを持参してきたのである。

 紙袋の上には、人形が一つ載せてあった。それは、声を発する「おじゃる丸」の人形だった。

 「この仕事した?」と事務所からも尋ねられたが、筆者は人形の声の吹き込みなどやった覚えはない。いまいち事情が分からなかったこともあり、後日NHKエンタープライズに確認しようということになった。

 事務所担当者が人形を持参し、「これは何なのでしょうか?」と直接尋ねたところ、当時の番組担当プロデューサー(現NHKエンタープライズ著作権管理担当執行役員)から「あなた何? これが何だっていうの?」「あなたたちには関係ない!」といきなり怒声を浴びせられ、面食らった。

「おじゃる丸を降ろしてやる!」から、相次ぐ周囲の言動

 「(事情が)分からないから、こうやって質問しているんです」と事務所担当者が再び説明を求めると、「黙って言う通りにしないと仕事できなくなるわよ!」「降ろしてやる!」「干してやる!」…。さっぱり事情は分からないが、彼女にとっては何か触れてはならないものに触れてしまったようである。

 そんなやりとりがあったことを事務所からも報告を受けたが、一体どういうことなのか訳が分からないまま、私はいつも通り大久保にあるスタジオへ仕事に向かった。スタジオに入ると、なぜかアニメ制作会社の社長が険しい顔でロビーに立っていた。

 「ちょっといいかい?」と手招きされ、ロビーの片隅のベンチに通路を背にして腰を掛けた。そして、社長が横に座るや否や、冒頭の「あなたがさぁ! やるって言わないと! 仕事できなくなっちゃうよ!」と罵倒を浴びせられたのである。

 何が起こっているのかその時はよくわからなかったが、尋常ではない社長の形相に恐れ戦(おのの)き、筆者が「すみません。事務所に聞いてください」とだけ答えると、「ああ、知らないよ。本当に」と社長は吐き捨てて立ち去った。

 むろん、そのときは『おじゃる丸』を降板させられることになるとは想像だにしていなかった。

役者にもその人独特のオリジナル声という人格権はある・・

2018/12/12号 産経デジタル掲載記事当時表写真

 通常、テレビ放送のレギュラー出演の場合は、正式な契約書を交わさないケースがほとんどである。しかしながら、声優や俳優、歌手、芸人などの「実演家」と呼ばれる人たちには法律上、「著作隣接権」という固有の権利が与えられていている(著作権法第89条以降に規定)。

 要するに、これは演技や演奏、歌や芸などは、実演家にとって生活の糧を得る「飯のタネ」であり、それはいかなる者であっても実演家本人の許諾なしに勝手に使用することはできないという権利なのである。

 この著作権法の中で、実演家は「自らの権利を専有することができる」と規定されているが、例外的に「ワンチャンス主義」(映画等における録画権は最初の収録時にのみ発生し、その後の二次利用については権利行使できない)を認めるケースもある。

 しかしながら当然、社会正義を実現するための法律だから、信義誠実が原則であり、実演者本人の意に反しない事が大前提になる。嘘をついて許諾させたり、だまして収録したり、特則(その他の約束)があったりした場合は、法律的に契約の解除や無効となる場合もある。

 例外や実務的な法律論になると、この場ではとても書ききれないので、それはそれとして筆者の場合、正式な契約書は交わしていなかったが、放送用の録音音声使用しか許諾していなかったのは事実である。むろん、それ以外で筆者の音声を使用する場合にはその都度、確認が必要であるとも通知していた。

おじゃる丸「映画契約書」が示す個別の契約事実の存在

 これは、『おじゃる丸』も例外ではない。事務所が管理している個別の契約書等を見ていただければ分かりやすいが、出演契約ごとに使用の範囲を明記し、それ以外の使用については「その都度許諾が必要である」と明記している。

 当然ながら、本編放送とは全く異なるケースへの音声使用が、出演契約に暗黙的に含まれるなどということはあり得ない。つまり、NHKエンタープライズ側は「『おじゃる丸』の人形に筆者の音声を無許諾で使用した(これは憶測ですが、おじゃる丸本編放送用音声のどこかを抜いて流用した、もしくは筆者をだまして録音したものを無許諾で使用した)」ということになる。

 その後、第3シリーズの収録が終わって間もなくして、突然NHKエンタープライズとアニメ制作会社社長の連名、その他キャスティング会社N社等から契約解除の通知が事務所に届いた。その内容は以下の通りであった。

 「3期分までを創世記と位置づけ一区切りし、4期以降で新しいおじゃる丸の想像に挑戦することになりました。このため、初心に返って、作品内容はもちろんスタッフキャストを再構築することになりました。その一環としてキャスティング業務を今までのN社ではなく新たな音響会社に委託し、おじゃる丸役も新規に起用することにしました」

全スタッフは継続、主役だけ降ろす異常な通知

 ちょっと待ってほしい。そんな話は第3シリーズの収録終了時にも一切聞かされていなかった。まったくの寝耳に水である。事実、第4シリーズが始まってみると、『新おじゃる丸』とはいうものの、スタッフ等の変更は何もなく、変わったのは筆者だけだったのである。

 「ああ、これが干されるってことか…」。まるで漫画やテレビドラマのような展開に半ば呆然としつつ、本編作品とは全く無関係かつ私的な問題でありながら、原作者や視聴者、シリーズを大事に積み重ねてきた作品に対する全ての人の思いを全く無視した態度に強い憤りを覚えた。

 ただ、この件に対するNHK側の主張としては、あくまで強制降板ではなく「契約満了」ということらしい。しかも、先ごろ『おじゃる丸』放送20周年のイベントもあったようだが、初代おじゃる丸声優(オリジナル音声「発声」)の筆者には何のお声もかからず、盛大に行われたようである。

守るNHK、逃げまくるプロデューサー

 以上が第3シリーズでおじゃる丸を降板することになった一連の経緯である。実は番組プロデューサーには何度も面談を申し入れたが、一切話し合いの場に出てくることはなかった。

 結局、解決の糸口はつかめないまま、ほどなくしてインターネット上では「高額なギャラを請求しておじゃる丸を降ろされた」「小西の事務所は反社会的勢力だ」「女優に転向するために声優を引退した」などと事実無根の書き込みや、筆者の人格攻撃をするまとめサイトまで現れ、他の仕事や出演依頼も徐々に減っていった。

 実を言えば、筆者は口下手な方であり、同業の親しい友人もいなかった。しかも、この一件以降、それまで交友のあったスタッフとも何となく音信不通になってしまい、当時はネットをほとんど見ていなかったこともあり、よもやそんな風説が流されているとは思ってもいなかった。

 逆の立場で考えれば、事実無根とはいえ「反社会的勢力とつながりがある」かのような噂が独り歩きすれば、大抵の人は関わりたくなくなるだろう。結局、声優としての出演依頼はほぼなくなり、そもそも所属事務所が音楽事務所だったので、表現の場はほとんど音楽になっていった。

 それでも、筆者が音楽活動をすれば「アーティスト気取り」などと陰口を言われる。当時は20代前半だったから、精神的ショックもかなり大きかった。

数々のインターネット上の名誉毀損書き込みがはじまる

 それから時が流れ、2015年ごろだったと思う。ふとネット検索をしていた事務所スタッフが、筆者に関する前述のような事実無根の書き込みや記事を複数見つけた。このとき初めて、悪意に満ちた風説が10年以上も放置されていたことを知ったのである。驚きと同時に怒りに震えたが、匿名というネットの壁に押しつぶされ、途方に暮れた。

 しかし、このまま一生汚名を背負っていくわけにはいかないと思い、名誉を回復したい一心で、名誉毀損記事の削除を求めて裁判所に仮処分を申し立てた。匿名とはいえ、書き込んだ人物への厳重な処罰を求めて刑事告訴にも踏み切った。

 それから多大な時間と労力をかけてようやく仮処分も勝ち取り、16年には神奈川県相模原市の自称アニメライターの男性が起訴され有罪となったが、それでも筆者が失った十数年が戻ってくるわけではない(*当時、アニメセイユウというTwitterアカウントなどを所有)。

 とはいえ、この経験はとても有益であったことに変わりはない。できれば、もっと詳述したいところだが、これはまた別に執筆する機会があれば報告したいと思う。

 さて、現在の筆者は売れない音楽を自由にやれるのが心地良く、むしろ表舞台よりもスタジオに引きこもっている方が性に合っている。たまにヤフーオークションに出品されたヴィンテージギターを指をくわえて眺める日々である。そんな引きこもり生活を続けていたある日、筆者の携帯が突然鳴り響いた・・・。

新たな着服横領犯罪を隠し通したNHKと出入りマスコミ

 発信元は取引先であるNHK関連会社社員だった。実はその後、この社員による着服が発覚し、筆者の事務所もトラブルに巻き込まれそうになった。「言う通りにしないと…」。筆者は即座に18年前のことを思い出した。公共放送という立場を忘れ、まだこんな傍若無人なことを繰り返しているのかと再び怒りを覚え、すぐさまNHK経営企画室に改善要請の書面を通知した。

 ところが、数カ月たってNHKは「問題の社員は適正に対処した」と言うだけで、謝罪もなく、その後の社員の処遇も知らされずうやむや。内部的に処理しただけで、事態の根元を正そうとか、今後同じ不祥事が起きないように対策を立てる様子もなく、広報すらもしない(これは公共放送としての資質を国民に問われる重大問題)。

 この一件で18年前のことを思い出し、怒りに任せてあの降板の内容をツイッターでつぶやいた。18年前はチャットが流行り出したくらいで、メールのやりとりさえ珍しかったのに、今や発信した情報は瞬時に拡散され、知りたい情報がどんどん入ってくる。良くも悪くも便利な時代である。

 筆者のツイートは瞬く間に広まり、民放各局のテレビ番組でも取り上げていただき、さらに発端となった「おじゃる丸人形」の情報をツイッターで求めたところ、件の人形のほかにも時計やゲーム、景品などさまざまな類似商品が存在することを知った。要するに、NHKエンタープライズをはじめとするNHK関連会社が、商品の企画・製作の全てを筆者に隠し、10年以上にわたり販売・流通させていたのである。

 18年前のあの時、事務所担当者の質問に異常なまでに反応して常軌を逸し、「干してやる」とまで激怒した理由はこれだったのか。長年、腑に落ちなかった疑問がやっと解けた瞬間だった。

 こうして動かぬ事実が新たに発覚したにもかかわらず、NHK側は今もただ「知らぬ存ぜぬ」を貫いている。これでは一向にらちが明かないと思い、筆者は今年8月、被疑者不詳の著作隣接権侵害で警察に相談し、告訴状を提出した。

子供番組の資質、クリーン・イメージも理解されない昨今

 もちろん、「NHKが憎い」とか単なる私的な感情で動いているわけではない。明確な著作隣接権侵害、すなわち音声の無断使用がなければ、筆者はおじゃる丸を降板させられることもなかったのである。

 しかも、NHK側からはいまだ謝罪はない。言葉は悪いが、公共放送を標榜しながら反省すらしないNHKのやり方が許せないのである。なお、この原稿を執筆中にも、ここ最近の事案として今年9月に開かれた「大おじゃる丸博」でも、筆者の声が使用されていたという情報をツイッターフォロワーさんからいただいた。

 18年前のことを今になって騒ぎ立て、「売名行為だ」という批判も聞こえてくる。はっきり言うが、筆者にそんな気持ちなどない。ただ、突然の降板から18年を経て再び起こった悪夢のような出来事が、筆者の背中を後押ししたに過ぎないのである。悪魔のささやきか、天の与えた使命か、はたまた勘違いか。

 それは神のみぞ知る結末かもしれないが、些細な経験とはいえ、それが悪しき慣習を変えるきっかけになるのであれば幸いである。

 それと同時に、ツイッターなどでいただく温かいメッセージはとても心強く、疲れを癒やされているのも事実である。『おじゃる丸』は降板はさせられたが、筆者の社会的存在までは降板させられていない。覚悟を決めた筆者の思いを決して侮ることなかれ。

●ANALOGシンガーソングは公平性のあるメディア。NHK広報の主張も同時掲載します。

   1,産経デジタルからNHKへの質問

(1)小西の事務所担当者が無断流用について確認したところ「黙って言うとおりにしないと仕事できなくなるわよ!」等 と言った件について

(2)強制降板について

(3)おじゃる丸のしゃべる人形などの商品が小西さん本人の許諾なして勝手に使用した件について産経デジタル

   2,NHKの回答

名宛て、他営業等の秘密にかかわる部分は加工
*産経デジタル iRONNAサイト閉鎖のため、小西寛子執筆記事のアーカイブはこちらからお読みいただけます。記事を転載される際は©産経デジタル iRONNA 及び本ページのアドレスの表記をお願いいたします。
The entire article can be quoted in your media if you give credit for the article. (Credit must be given to  both Sankei Degital Co “iRONNA” and Author: Hiroko Konishi.

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