(写真、米山事務所ウェブサイト)
「米山隆一氏が有名ネット右翼を開示請求」というネット記事が目に入った。筆者も丁度オピニオン記事として執筆しようとしていた「嘘と不寛容な大人社会が子供に与える影響(ネット上の名誉毀損と人権侵害)」を取材中だったので、「開示請求」という文言の入った当該記事に興味が沸き、元新潟県知事で弁護士兼医師の米山隆一氏の意図を取材した。
まず、頭書の事件を要約すると・・・
- 保守政党の支持を表明している政治系インフルエンサーで、Twitterにて13万人のフォロワーを有し、SNSをベースに活動している「乙」という匿名の人物による、依頼者「甲」への誹謗中傷ツイートを受け、米山氏は甲の訴訟代理人を受任。
- 乙への名誉棄損の損害賠償請求のためTwitter社ならびにプロバイダーに対して発信者情報開示請求をした。
- 本年6月16日、裁判所の決定により「乙に対する発信者情報開示」が認められたと甲の代理人米山氏がツイッター等にて発表。という流れになっている。
・・・また、乙はかつてTwitter上で「サウジアラビアやドイツに在住。年収2億円などと謳っていた」件について、米山氏は「乙の個人情報については言及が難しい」と前置きをした上で「海外居住の話や、国内でも超高級タワーマンションに住んでいるような人物である事を裏付ける様な情報は把握していません。」と答えている。
筆者も過去に、自身に対する名誉毀損の告訴や仮処分等をすべて本人訴訟で手続きしている。自分で自分を代理するというのはとてもやりにくい。当事者たる「被害者」の自分と、自分とは別の「客観的な立場で代弁する人物」の二種類に分割することは困難ではあったが、役者としての意地がある。
法廷の中では「自分」ではなく、「代理人」という立場を意識し、こみ上げてくる怒りを押し殺して臨んだ。すでに起訴有罪が確定された事件は、新聞社等で報道記事になったりしているので興味ある方は参考にされたい。
余談はさておき、筆者が米山隆一弁護士の開示命令の記事で注目したのは、「乙の背景や匿名の上での役づくり」だ。つまりこういったネット上の名誉毀損書込み者の「リアルな人物像」である。筆者の事件を例に照らしてみると、ある書込み者はネット上では「声優事務所に詳しいアニメ業界関係者OB」を名乗っていた。
警察のガサ入れなどで(食堂等の)アルバイト従業員や、国から生活の援助を受けていたり、中には刑事罰に問えない違法性阻却事由が存在したりする場合もあった。ネットで言われているような裕福な人物とはほど遠いものだった。
しかしながら、乙が匿名でありながら13万人のフォロワーがいるのは不思議で、これほどの人気!?を獲得している乙のリアルな人物像や、こういったものの背景には筆者は大変興味がある。
「匿名が問題なのでは無くて、匿名で何をしたかが問題だと筆者は思う。」それが重要で、ネット社会が子供達に与える影響はこのモラルなどの部分を社会しっかりが作っていないからだと断言できる。
さて、筆者(ANALOGシンガーソング編集部)はそんな米山隆一氏に、上記の事案を踏まえ筆者なりの視点で質問をぶつけて見た。*下段(質問意図)は筆者の考えで、米山氏には伝えていません。
ア,本件は米山隆一弁護士として(訴訟代理人)として第三者(クライアント)から受任された事件でしょうか?
・・・その通りです。
・(質問の意図)記事では甲の詳細が少なかったので米山氏本人の事件なのか、それ以外なのか確認のため。
イ,かかる請求は,記事削除等の仮処分に利用するものではなく,本訴請求を視野に入れた申立てでしょうか?
はい、本訴請求が目的です。既に大量に拡散されていて記事削除は殆ど意味がありませんし、記事削除では却って責任の所在があいまいなりますので、記事削除の仮処分は行っていません。本訴が確定しましたら、記事削除と併せて、アカウントの停止をTwitter社に求めます。
・(質問の意図)筆者の意地悪な質問だったが、近年、自らに対する意見を萎縮させ黙らせるために恫喝目的で提訴 するいわゆる違法な訴えの事案も多い。しかしながら、本来は人の社会的信用の低下を伴うものであり、刑事的には名誉毀損罪に相当するもの。甲の訴えの意思、強さを伺いたかったのでイの質問をした。
ウ,訴訟中ですから本件についての取材以外は的外れとは思いますが,念のため訴訟代理人を続けていくことと,政治家に戻り名誉毀損等の手続き法案の起草などをしたいなどありますか?
訴訟手続きをしてみると、兎も角発信者情報開示に手間がかかるのに驚きます。本件訴訟では、当該アカウントが継続的に新たな名誉毀損発信(TW)を発信したので問題になりませんでしたが、そうでない場合は、SNSの発信者情報が開示された時には当該名誉毀損発信(TW)についてのプロバイダーのログが残っておらず、開示ができないという事になってしまいます。
細かい話に見えるかもしれませんが、ここは立法で、「SNSで発信者情報が開示された場合、その人物が発信したと思われる発信(TW)については、それ自体は名誉毀損でなくても、プロバイダ―に対する発信者情報開示請求の対象とする」とするだけで、匿名アカウントによる名誉毀損への対応は格段に楽になりますし、それは立法技術的に容易です。
この分野はまだ法律の立て付けが十分整備されていない所だと思いますので、言論の自由を可能な限り尊重しながら、しかし匿名の陰に隠れた無責任な誹謗中傷で他人の権利を傷つける方には、適正に責任をとって頂く制度を、是非作っていきたいと思います。
・(質問の意図)米山氏が立法府で活動されることを考えているかどうかというもの。
エ,立場に関係無く,名誉毀損,誹謗,中傷に立ち向かっているのは(筆者:小西寛子)も同じですが,これら同じ考えを持つ者達に対し何かメッセージやアドバイスはありますか?
匿名の陰に隠れた誹謗中傷と戦うのは非常に勇気がいりますが、こういう人達を放っておくのは、それこそ日本全体の為になりません。是非勇気をもって立ち上がっていただきたいと思います。
ただ、戦いを始めても、相手は相変らず匿名の陰に隠れたまま攻撃を続けますし、これも匿名で野次馬的にその様な人の尻馬に乗る人も多数出ますから、相当に疲弊します。
また、普通の個人の方ですと、相手との戦い方のノウハウもなく、不用意な戦い方をすると、却って誹謗中傷が広がる結果にもなりかねません。戦うときには、一人にならず、専門家や、こちらのような支援団体にアドバイスを求めることを強くお勧めします。
匿名の陰に隠れた誹謗中傷と戦うのは本当に大変ですが、そう言う一歩一歩が、日本の言論環境、人権環境の向上につながると私は信じています。
どうぞ宜しくお願い致します。
・(質問の意図)近年、名誉毀損やネット上の誹謗中傷やいじめ、人権侵害その他に対する国や政府、行政機関の対応が新型コロナウイルス感染症問題やオリンピック問題などでやや鈍化している。
誹謗中傷は基本的には「1対見えない多数」。弱者のヘルプが埋もれないようサポートが必要である。被害者には専門家などが即サポート出来るような体勢があることを知ってもらいたいのという願いからの質問。
取材:おおたか総合法律事務所 代表弁護士 米山隆一(医師・医学博士) http://www.otaka-law.com
(*質問意図以外は全て原文ママ)
以上が米山隆一弁護士への質問の解答ですが、筆者が今回からスタートさせたシリーズ・タイトル「嘘と不寛容な大人社会が子供に与える影響」を考えたその一つには米山隆一弁護士答えにもあるように「匿名の陰に隠れた誹謗中傷」、そして人権侵害の実際の姿をみて子供達はありきたりのものとしてそれを吸収してしまう。
「盛る、平気で公言してしまう嘘」などを含め、影響をあたえるものをピックアップしてお届けします。次回②は「不正アクセスに罪悪感を感じないこどもたち」聞き込み取材を元にリアルなICTの現状も含め報告します。
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